人間は脳の10%しか使っておらず 残りの90%は予備で 何もしていないという人がいます。しかもそれが科学的に証明されていると言うのです。
多くの脳に関する常識と同じくこれも根拠がありません。
これまで人間の巨大な前頭葉や 頭頂葉の広い領域の 役割を見出せませんでした。 そこが損傷しても 運動や感覚に欠陥は生じないために その部分は何もしていないと 結論されたのです。 何十年ものあいだ これらの部位は 沈黙野と呼ばれ その機能は 知られていませんでした。
もちろん今ではこの領域の役割が分かっています。 これらの領域は 抽象的な推論や計画 決断力 そして環境への 柔軟な適応に不可欠なのです。沈黙どころか重要な役割を持ちます。それは 司令塔的な役割や 統合の役割を持つことが解明されました。 この能力なくして 人は人と言えません。
脳の9割が頭の中で 何もしていないという考えは 脳のエネルギー消費を計算してみると ばかばかしく思えます。
また多くの細胞が常に不活性であれば それらは不必要なものとされ 大昔に進化の過程で 切り捨てられていたはずです。
イヌの脳は 身体の総エネルギー量の 5%を消費します。 サルの脳は10%を使います。 人間の成人の脳は 体の2%の重さしかありませんが 一日に燃やされるグルコースの 20%を消費します。
子どもの場合は その値は50%。 幼児になると 60%です。 これは体のサイズに占める 脳の大きさの割合を考えると 予測以上の数字です。
人間の脳は1.5キログラムです。 ゾウの脳は5キログラム。 そしてクジラの脳は9キログラムです。 しかし 重さあたりで考えると 人間の脳には他の生き物の 脳よりも 多くのニューロンが 詰め込まれているのです。 この密度こそが われわれをとても賢くしているのです。
人間も含めた霊長類が維持できる 体のサイズとニューロンの数には トレードオフの関係があります。 25 キログラムの類人猿は 530億のニューロンを抱える 脳を維持するためには 一日に8時間食べねばなりません。
150万年の 加熱調理という発明は我々に大きなメリットをもたらしました。
調理された食べ物は 体に入る前から柔らかく 消化しやすくなっており より楽にエネルギーが吸収されるのです。 調理により 短時間で 多くのエネルギーを摂取できるからこそ 人間は860億ものニューロンが 密に詰まった脳を 維持できるのです。 この量は 類人猿よりも40%多いのです。そのため 脳はエネルギーを 大量に摂らねばなりません。
一度に ほんの一部の細胞だけに 信号を発せさせることで 最小のエネルギーで 最大の情報を運ぶことができます。 なぜならその少量の電気信号が 何千という経路によって 伝達されていくからです。
そのためには脳が 一度に活性化できる細胞の 最適な割合を 見つけることが必要です。 最も効率が良いのは 1から16%の細胞が 常に活性化されている状態です。 これが 意識を保つために 受け入れざるをえない エネルギーの限界なのです。
そこから脳が10%しか使われていないという神話が生まれたのでしょう。
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